グリッタリング・グリーン
落ちあった都内の駅前の噴水に腰かけて、葉さんがバッグから、ポストカードみたいなものをとり出した。
空港から直行してきたという彼は、見送った時と同じく、荷物をそれしか持っていない。
PCとカメラ以外は全部送ってしまうのが流儀らしい。
「わあ、私この作家さん、大ファンです!」
「そうだと思った、中を見てみなよ」
私が心から尊敬する、イギリスの近代アーティストの作品たちが、二つ折りのパッケージに挟みこまれている。
あれ?
これ、ポストカードじゃない、裏面は真っ白だ。
見たことのない作品もいくつかあるな、と眺めていたら、パッケージの端に、サインが入っているのに気づいた。
プリントじゃなく、紙そのものに書いてある。
そしてサインのそばに、宛名がある。
To.Tomoe
食いいるように見つめる横で、葉さんが満足げに笑った。
「これ…」
「呼ばれたパーティにたまたま来てたんだ。本人が配ってる私的なポートフォリオだから、どこ探してもないレアアイテムだよ」
「お知りあいですか?」
「まさか、サイン頼む時、どれだけ舞いあがったと思ってんの」
「どうして、私がファンだって」
「作風でわかるし、何かの話で名前出してたよ」
私が?
そんな、記憶にもないようなささやかな会話を、覚えててくれたっていうんですか。
「ねえ、午後も空いてるなら、俺につきあって」
「どこか、行きたいところでも?」
「ないけど、一緒にぶらぶらしたい」
長旅でくたびれたんだろう、葉さんはうーんと伸びをすると、はずみをつけて立ちあがって、手を差し出した。
「いい?」
手を乗せると、確かめるように一瞬私を見る。
二ヶ月ぶりに会うのに。
電話越しに、好きなんて突然言ってくれたのに。
なんにも気にする様子のない、相変わらずの葉さん。
私の手を握って、とりあえず駅ね、と歩き出した。
空港から直行してきたという彼は、見送った時と同じく、荷物をそれしか持っていない。
PCとカメラ以外は全部送ってしまうのが流儀らしい。
「わあ、私この作家さん、大ファンです!」
「そうだと思った、中を見てみなよ」
私が心から尊敬する、イギリスの近代アーティストの作品たちが、二つ折りのパッケージに挟みこまれている。
あれ?
これ、ポストカードじゃない、裏面は真っ白だ。
見たことのない作品もいくつかあるな、と眺めていたら、パッケージの端に、サインが入っているのに気づいた。
プリントじゃなく、紙そのものに書いてある。
そしてサインのそばに、宛名がある。
To.Tomoe
食いいるように見つめる横で、葉さんが満足げに笑った。
「これ…」
「呼ばれたパーティにたまたま来てたんだ。本人が配ってる私的なポートフォリオだから、どこ探してもないレアアイテムだよ」
「お知りあいですか?」
「まさか、サイン頼む時、どれだけ舞いあがったと思ってんの」
「どうして、私がファンだって」
「作風でわかるし、何かの話で名前出してたよ」
私が?
そんな、記憶にもないようなささやかな会話を、覚えててくれたっていうんですか。
「ねえ、午後も空いてるなら、俺につきあって」
「どこか、行きたいところでも?」
「ないけど、一緒にぶらぶらしたい」
長旅でくたびれたんだろう、葉さんはうーんと伸びをすると、はずみをつけて立ちあがって、手を差し出した。
「いい?」
手を乗せると、確かめるように一瞬私を見る。
二ヶ月ぶりに会うのに。
電話越しに、好きなんて突然言ってくれたのに。
なんにも気にする様子のない、相変わらずの葉さん。
私の手を握って、とりあえず駅ね、と歩き出した。