グリッタリング・グリーン


「すごい、なんですか、これ」

「アートクラフトフェアって言ってたかな、記憶で来たけど、日付合ってた、よかった」



葉さんのアトリエの近くの駅前が歩行者天国になっていて、所狭しと露店が出ている。

天蓋の下では、アクセサリーやおもちゃや絵画など、いろんなものが並んでいた。



「こういうの、好きなんですか」

「生方は?」

「大好きです」

「そうじゃないかと思ってさ」



平然と言い、小さな編みぐるみを手にとって、高すぎじゃない? と独り言をつぶやく。

改札で離さざるを得なかった手を、ホームまでの間で自然にもう一度握ってくれた時、私は嬉しくて。

人ごみを器用にすりぬけながら、少し前を行く葉さんの肩が、急に男の人らしく見えて、困った。


わーっという歓声と拍手が聞こえてきた。

すぐ先で、大道芸が行われているらしい。

派手なベレー帽の男性が、イーゼルに置いた大きなアクリル板に刷毛で何か描いている。

透明なアクリル板のうしろは黒く塗られていて、でも絵具も透明なので、何を描いているのか全然わからない。



「へえ、グリッターペインティングだ」

「なんですか?」

「接着剤で絵を描いたところに、ラメ入りの粉末を振りかけるんだ、見ててみなよ」



両手で持った刷毛を一心不乱に動かしていた男性が、出来栄えを確かめるように数歩離れてから。

おもむろに小さな容器をとり出して、さっと振った。

金色の粉がアクリル板に降りかかり、表面を流れ落ちる。


瞬間、絵柄が現れた。

北斎の、富嶽三十六景のひとつ『神奈川沖浪裏』だ。


イーゼルを半円に囲むように座った観客から歓声があがり、私も大興奮で拍手した。

葉さんも楽しげに、すごいすごい、と手を叩いている。



「砂絵の要領ですね」

「スナエって何?」



えーと、と説明しようとした時、男性が観客に向かって、片言の日本語で、誰かトライしてみないかと呼びかけた。

誰もが様子を伺う中、男性はおもむろに首を回すと、ぴっと葉さんを指さした。

集団の後方に立っていたので、目についたんだろう。

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