グリッタリング・グリーン
割れるような拍手と、すげえ、とかやばい、という興奮した声。

どうも、なんて応じていた葉さんは、いつまでたっても鳴りやまない拍手に、ようやく状況を把握したらしく。

急に慌てだして、ほうり投げるように刷毛を返すと、こっちに駆け戻ってきた。



「びっくりしたー」

「びっくりしたのはこっちです、すごいです、葉さん」

「受けたかな」

「受けたなんてもんじゃないです!」



足もとめずに私からバッグをとりあげ、熱狂した場をあとにする。

手を引かれて私も、人ごみを小走りで進んだ。


葉さんの手が、熱い。

どうやら、恥ずかしくて仕方ないらしい。

あんな見事なパフォーマンスを見せておいて、どういうことなんだか。



「どこで覚えたんですか?」

「高校の文化祭で一発芸大会があって、その時、逆さに絵を描く練習、したんだ、その応用」



あれと、当時の米国大統領しか描けないよ、とぶっきらぼうに言う横顔が赤いので、笑ってしまった。



「人前に出るの、苦手ですか」

「見てりゃ、わかるでしょ」

「なのにあんな目立ってたら、ダメですよ、オファーが来ちゃいますよ」



からかってみたら、葉さんが怒ったように振り向いた。



「生方に、いいとこ見せたかったに決まってんだろ」



…私は、何も言えず。

たぶん、彼に負けないくらいには赤くなって、手を引っ張られるままに、走った。



葉さん、私、つい今朝まで、さみしくて仕方なかったんです。

世界的なステージで称賛を受ける葉さんを見て、もう、どんな顔して会えばいいのかわからなくなって。


舞台上に呼び出されて、しきりに居心地悪そうにしていた姿を思い出す。

スタンディングオベーションの収拾がつかなくなり、司会の女優が、突然彼を呼んだのだ。

後方のカメラブースにいた葉さんが、きょとんとするのが映っていた。

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