グリッタリング・グリーン
ストックのあてができて安心したのか、葉さんがようやく、くわえていた煙草に火をつけた。

最低限の動作で、さっとライターを煙草の先にかざして、次の瞬間にはもう、煙を吐いていた。

見た目があんまりヘビースモーカーって感じじゃないだけに、葉さんのこういう慣れた仕草は、目を惹く。



「味って、種類によってそんなに違うんですか」

「違うね」

「気分で変えたりするんですか?」

「俺はしない。廃盤になったりとか売ってなかったりで、やむを得ず他のに行くってのは、あるけど」



ふうん、と運ばれてきたアイスティに、身体を使ったぶん、シロップを入れた。



「人から煙草をもらうのって、どんな時ですか」

「そりゃ、持ってない時じゃない?」

「いえそうでなく、当たり前に煙草をあげたりもらったりって、やっぱり仲がよくないとしないのかなって」



たとえばちょっと甘えてみたいとか、逆に甘やかしてみたいとか。

そういう意識がどこかにあって、するものなのかなと思ったんだけど。

葉さんは、考えたことなかった、と腕組みし。

宙を見つめながら、うなずいた。



「確かに、それなりに親しくないと、やんないね」

「加塚部長がですね、葉さんのお母さんがちょうだいって言う前に自分から渡すんです、それが本当に親しげで」



あー、と納得の声があがる。



「あのふたりの話か、それはね、つまり加塚さんが母さんをよく見てるってことだと思うんだよね」

「そうなんですか」

「吸いたいタイミングとか、人のを欲しくなる時とか、あるわけ、それがわかるくらい、母さんを見ててくれてるんだよ」

「本当に仲がいいですよね」

「だろ、くっつかないかなーって、ずーっと思ってるんだけどさ」



灰皿の縁で煙草を叩きながら、そこでふと思い出したように、私を見た。



「母さんに、会ったんだ?」

「はい、慧さんのアトリエ…で」



はっと口をつぐんだのは、たぶん、逆効果だった。

葉さんがぴたりと手をとめて、静かな視線を向けてくる。



「親父の、アトリエで?」

「…あの」


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