グリッタリング・グリーン
すでに半分ほどのページが埋まっているメモ帳を受け取って、遠慮しながらぱらぱらめくる。

そこには葉さんのイラストの原案だろう、かなり粗いけど、ひと目で彼の絵だとわかるものが各ページに刻まれていた。

これに私が描くの。


おじけづいて葉さんを見上げるけれど、じっと私を見る彼は、描かない限り納得してくれそうにない。

私はペンのキャップをはずして新しいページを開き。

ここに何を描こう、と考えた。



はっと気がついた時、私はいつの間にか座り込んで、絵の世界に没頭していたことを知った。

見れば絵は何ページにもわたった連作になっていて、紙がごわつくくらい好き勝手に描き込みまくっている。

しまった、と青くなって顔を上げると、ゴンと頭が何かにぶつかって、いて、と声がした。


正面に座りこんでいた葉さんが、間近にメモ帳をのぞきこんでいたらしい。

背中を丸めてしゃがみ込む姿は、まるで高校生みたいだ。


私が頭突きしてしまった額を押さえながら、なおも逆さから、私の手元を食い入るように見つめている。

ぱさぱさと無頓着に伸ばされた柔らかそうな前髪が私の鼻先をかすめて、ふわっといい香りがした。



「すみません」

「何が」



葉さんが目だけを上げたせいで、至近距離で一瞬見つめ合うはめになる。

私は慌ててメモ帳とペンを彼に返し、立ち上がった。


すっかり固まった足腰が痛い。

どれくらい時間がたったんだろう。


続いて立ち上がった葉さんは、メモ帳をめくりながら、ふうんと白い息を吐く。



「こんなの、描くんだ」



いたたまれなかった。

私の、そんな趣味レベルのイラスト。

葉さんに見てもらうようなものじゃ、ありません。



「あの、失礼します、会社、戻らないと」

「そう」



葉さんは改めて、ここが屋外で路上で、今が平日の昼間であることを思い出したように。

ふと顔を上げると、メモ帳とペンをポケットにしまった。

< 9 / 227 >

この作品をシェア

pagetop