グリッタリング・グリーン
「渡辺(わたなべ)エマです、はじめまして」
「はっ、はじめまして、生方朋枝です」
慣れない作法におたおたする私を笑うでもなく、エマさんは心地よい強さで私の手を握った。
青い瞳がまっすぐに微笑みかける。
大人の女の人。
「葉、あとで連絡くれる? 嫌なら今話すけど」
葉さんが少し迷うそぶりを見せた。
「じゃ、今で」
「オーケー、時間はとらせないわ」
「生方、ちょっとごめん」
エマさんについて、何か説明をもらえるかもという期待は外れ。
隣のテーブルに移ったふたりを見ていて、女の勘なんてものが自分にも備わっていたことに、驚いた。
エマさんに耳を傾ける葉さんが、男の人の顔をしてる。
私には見せたことのない顔をしてる。
笑いあうでもなく、見つめあうでもなく。
表面的な愛想がまったくないことが、むしろふたりの距離の近さを表しているように思えた。
“毛色が違う”って、こういう意味。
ね、葉さん、少しでも気がとがめてると、言うべき時に言うべきことを、言えないですよね。
小さな顔が動くたび、長い髪が揺れる。
葉さんの、“前の人”。
「そういう話なら、帰って」
突然、葉さんが険しい声をあげた。
なだめるエマさんを無視して、私のほうへ来る。
「葉、紹介だけでもさせて」
「俺はエージェントとは関わらない」
「これからもこういうオファーが来るわよ、毎回そうやって断るの? そんな無駄な時間を使うことに、耐えられるの?」
「その時考えるよ、生方、行こう」
葉! と呼ぶ声を振りきるように、私をつれて葉さんは、小さな建物を出た。
「短気は治ってないのね、話を最後まで聞きなさい」
「エマ、悪いけど」
戸口まで追いかけてきたエマさんを、くるりと葉さんが振り返る。
「俺はもう、あんたのおもちゃじゃない」
私の手を握る指は。
ひやりと冷えて、震えてた。