グリッタリング・グリーン
エマさんと私がアトリエに入っていくと、慧さんがわーっと悲鳴をあげた。
「バカ息子とヨリ戻しに、わざわざ来日か」
「まさかその冗談が面白いなんて思ってないわよね、ミスター・マサキ」
ぴしゃりと言い返されて、不満げに黙る。
「だからブロンドは苦手なんだよ、葉と違って」
「私の髪はアンバーだし、葉はそんな浅はかな価値観、持ってないわ」
「ほら、これだ」
ぶちぶち言いつつ煙草を噛む慧さんが、私たちの背後を見て、目を丸くした。
「なんだ、葉、一緒か」
「案内してきただけだ、もう帰るよ」
戸口に寄りかかった葉さんが、低く言う。
「おー帰れ帰れ、この先は企業秘密だ」
「頼まれたって見ねえよ」
「誰が頼むか、バァカ」
薄手の黒いパーカーのポケットに両手を入れた葉さんは、忌々しげにチッと舌打ちをした。
帰ると言っても、エマさんの用件が済むまでは、つきあう約束なのだ。
一触即発の空気に、はらはらした。
こんな日に限って、沙里さんも部長もいない。
──俺はもう、あんたのおもちゃじゃない。
その言葉に、エマさんは愕然としたように見えた。
『おもちゃだなんて…思ったことないわ』
『そう、ならなおのこと、ほっといて』
硬い声。
握られた手が、痛いくらい。
『じゃあね』
『葉、私、あなたのお父様にも仕事の話をしたいの、どこにいるか教えてもらえない?』