グリッタリング・グリーン
結局、エマさんのほうが上手だったってことなのか。

“仕事の”と言われたら、真面目な葉さんは、自分にそれを阻む権利はないと考えてしまう。

嫌だ、なんて言えなくなってしまう。





エマさんが名刺を渡した。

有名なエージェンシーらしく、慧さんが眉を上げる。


「もう他社とつきあいがあることは知ってるわ、たっぷり比較してもらってかまわない、あなたと契約したい」

「あそこには個人的な義理があるってだけで、俺はそもそも、エージェントなんてもんは」

「日本は、エージェントというものに懐疑的すぎる」



慧さんの顔が露骨にしかめられた。



「それが嫌なら来るなよ」

「私たちはこの国に、代理人というビジネスを根づかせたいの、力を貸して」



渡されたクリアファイルを、ぱらぱらと眺めた慧さんが、目を見開く。



「そのブランドが、クリエイターを探しているの、あなたを紹介するつもり」

「マジかよ、やるやる、契約する」



軽、とびっくりしたけれど、案外歴史的なコラボレーションなんて、こんなノリで決められているのかもしれない。

なんのブランドかな、とのぞこうとした時、慧さんが困ったように訊いた。



「これ、スケジュールは? 俺、今のが終わっても、しばらく空かねーんだけど」

「スポーツブランドのCFでしょう? 彼らも私たちと取引があるから、実は内々で話をしてあるの、あなたが」



それを、とファイルを指さして、美しく笑う。



「受けてくれるなら、CFのほうは他のクリエイターにスライドさせてもらうつもり」

「身体がふたつありゃ、両方やりたいよ、くそ」

「まあ、そのクリエイターがOKしてくれればだけど」

「こんな話、嫌って言う奴がいたら見てみたいぜ」

「見られるかもよ」



エマさんに誘われて、全員の視線が集中した。

くわえ煙草で話が終わるのを待っていた葉さんが、目を見開く。

< 94 / 227 >

この作品をシェア

pagetop