グリッタリング・グリーン
「何、俺?」
「言っとくけど、日本法人のCFじゃないわよ、本国アメリカが制作して、全世界に発信するブランドCFよ」
すごい。
彼らの言っているのは世界的なスポーツブランドで、打つCMもプロモーションも、ことごとく話題を呼んでいる。
日本人クリエイターがかかわったって話すら聞いたことがないのに、それに葉さんが、携わる。
けど予想どおり。
葉さんは、ふざけるなよ、と声を震わせた。
「誰が、親父の代わりなんてするか」
とたん、慧さんがぷっと噴き出す。
「お前に俺の“代わり”ができるわけねーだろ、単なる次善策だよ、めでたいガキだな」
「マサキ、挑発しないで」
エマさんは、葉、と静かに呼んだ。
「あなたがマサキの息子だから選ぶわけじゃないわ、ふさわしいと思うから、オファーするのよ」
「やりかたが気に入らない」
「気に入らないのは、やりかただけ? つまりやってみたいって理解でいいのね」
葉さんが言葉に詰まった。
無理もない、こんな話、夢に見るほど熱望しているクリエイターが、山ほどいるだろう。
「面白い案件よ、あなたの代表作になるはず、あなたが好きなように制作するのを、クライアントも望んでる」
ゆっくりと近づくエマさんを、葉さんはじっと見た。
「何ひとつ悪いことはないわ、あなただって本当は、やりたくてたまらないはずよ、話が来た流れが気に入らない? それが何」
青い瞳から色が消えて、ほとんどグレーに見える。
エマさんは背が高い。
加えてシャンパングラスの脚みたいなヒールのおかげで、今は葉さんよりも上に頭がある。
「よく考えて、葉、ここで我を張って、あとから悔やんでも、何ひとつ戻ってこないんだってこと」