グリッタリング・グリーン
面白がるように慧さんが吹いた口笛は、無視された。



「親父から俺への変更じゃ、考えてたことそのままってわけにいかないだろ、クライアント、あせってない?」

「大丈夫と言いたいところだけど、実はそのとおりなの、すぐに打ち合わせの設定をするわ、場所は向こうでもいい?」



“向こう”っていうのは、つまりアメリカだろう。

また遠くに行っちゃうのか、と思ったのもつかの間、葉さんはきっぱりと首を振った。



「いや、こっちに来てもらって」

「日程がとれるかどうか」

「日本発のクリエーションを撮りたいなら、日本に来いって伝えて。嫌なら一緒に仕事はできない」



毅然とそう言いきるのに、気圧されたようにエマさんは、一瞬言葉を飲みこんで。

それから、満足げに笑った。



「それでこそ葉よ」

「補欠合格が、えっらそうに」



慧さんの茶々に、うるせえ、と葉さんが声を荒げる。



「事情がどうあれ、俺にオファーが来た以上は俺の仕事として、全力でやる、ただし俺の流儀でだ」

「さっきまでベソかいてたくせに、よく言うぜ」

「かいてねえよ!」



まあまあ、と部長がなだめに入った。



「話が飲みこめないけど、とりあえず慧、絡むな」

「俺のガキは、俺に好きにされるのが役目だろ」

「好きでてめえのガキなんじゃねえ、クソ親父」

「こっちの台詞だアホ息子。親だって子供を選べるわけじゃねえ、お互い博打みてえなもんなんだよ、いて!」



最後の悲鳴は、部長が慧さんの頭を殴ったせいだ。

続いて葉さんも殴られる。



「なんで俺まで!」

「親は敬えって教えただろ」

「あんなのでも?」

「あんなのでもだ」



悔しそうに黙った葉さんを、慧さんが笑った。

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