グリッタリング・グリーン
「お前、加塚みたいな親父がよかったんだろ」
「当然だね」
「残念だったなあ、お前がどう頑張ったところで、お前の父親は、一生この俺だ」
「そんなの、母さん次第だ」
急に話題にされた沙里さんは、目を瞬かせる。
部長も、おい、とさすがに戸惑いを見せた。
「次第と来たか、どう次第なんだ」
「てめえに母さんの旦那を名乗る資格はねえってことだよ、いい歳してフラフラ好き放題しやがって」
「別居中でも、浮気って成立すんのか?」
「マジでクズだなてめえ!」
「葉、落ち着け」
つかみかかりかねない勢いだったのを、部長が腕をまわして制止した。
「加塚さん、なんでこんな奴に、母さん預けてんだよ」
「お前も言っただろ、沙里が選んだからだよ」
「選んだわけじゃない、俺ができたから、仕方なくだろ」
「そもそもそれが、選んだってことなんだよ」
変な話、させるなよ、とばつが悪そうに、部長がみんなを見回す。
葉さんはようやく、話題がものすごく際どいところに至っていたことに気づいたのか、口をつぐんだ。
むっと押し黙って、足元の吸殻を拾いあげる。
「エマ、用件が終わったなら、俺は帰る」
「案内してくれてありがとう、連絡するわ」
「今日は完全オフの予定だから、明日以降にして」
「オーケー」
敷地と公道を隔てる門のほうへ行きかけた葉さんは。
ふと振り向くと、エマ、と呼びかけた。
「なあに」
「これがエージェントってもののやりかたなら」
手元で吸殻をもてあそびながら、視線をさまよわせて。
「俺はどうやって、あんたたちを信じればいいの」
そう、さみしげに微笑んだ。