その体温に包まれたい
「まーた、残ってんの?」



突然聞こえた声に、バッと勢いよく後ろを振り返った。

思いがけなくそこにいたのはいつものやわらかな笑みを浮かべる、“彼”。



「あ……っ」

「寒がりなんだから、無駄に気なんか遣ってないで暖房つければいいのに。ばかだなあ」



私のすぐそばまで近付くと、彼はこちらを覗き込んでくる。

その整った顔を直視できなくて、ぷいっと視線を逸らした。



「う……うるさいな。ほっといてよ」

「意地っぱり。そういうところもかわいいけど」



彼の甘い言葉で、心拍数が上がるとともにふわりと頬に熱がともる。

けれども『うれしい』と表情に出してしまうのもシャクなので、私はわざと不機嫌な顔をして見せた。


去年の4月に入社した私とその冬にやって来た彼は、いわば同期といえる間柄だ。

あまのじゃくで意地っぱりな私は、いつも素直になれないけれど。

本当は彼と話すたび、そのやわらかい笑顔とあたたかい人柄に癒されている。
< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop