その体温に包まれたい
不意に、デスクの上の右手に自分とは違う大きな手が触れて、ぴくっと肩がはねた。

とっさに顔を上げれば、なんだか怒ったように眉を寄せる彼がすぐそこにいる。



「手、冷たい。これじゃ仕事に集中できないだろ」

「……もう、終わるから」

「だめ。冷えたからだをどうにかするのが先」



言いながら微笑んで、私と目を合わせた。

どきりと心臓が高鳴ったのと同時、彼が耳元でささやく。



「仕方ないな。……また、俺があっためてあげようか?」



こちらの返事を聞く前に、背後からあたたかい体温に包まれた。

驚く私の首もとにしっかりと手をまわし、彼が後ろから抱きしめてくれている。



「……ッ、」

「普段なら、もっと目立たないようにやるけど。今はまわりに誰もいないから、特別な?」



すぐ耳元で話すから、くすぐったくて恥ずかしい。

普通の人より体温が高いらしい彼は、私が寒くて仕方ないとき、こうしてぬくもりを分け与えてくれるのだ。

さすがに、この体勢は恥ずかしいけれど。でも、くっついたところから彼のやさしさも伝わってくるようで、残業に疲れた私の心も次第に溶けていくみたい。
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