王子様の献身と憂鬱
『ルックスだけの無能は気楽でいいな』
嫌味な声が唐突に背後から飛んで来た。
最近やたらと絡んで来るこいつが目下の悩みの種だ。うんざりしながら声のした方を振り返る。彼女の事だけを考えていたいのに、こうして邪魔をされるのが腹立たしい。
愛想のない顔付き。センスの欠片もない無骨な漢字とカタカナの描かれた格好。まるでおのぼりの外国人観光客が着る怪しげな土産物Tシャツだ。とてもじゃないが隣に立ちたくはない。まあ並んだ所で奴は僕の引き立て役にしかなれないけれど。
『派手な面しやがって。仕事が出来ない奴に限ってヘラヘラ媚を売りまくるんだ。着飾るだけしか脳がないくせに』
毎日繰り返し聞かされる同じ嫌味。よくもまあ飽きもせず突っかかってくるものだ。
『仕事が出来るってのは効率だけの問題じゃないんだよ。僕には僕の存在意義がある。君ではどうしたって果たせない役割だ』
だから僕も言い慣れてしまったお決まりの反論を口にする。
『存在意義?ただの当て馬でしかないのによく言うよ。彼女にとってなくてはならない存在は俺の方だ。つまり本命って事。彼女は刺激を求めてる。それを与えられるのは俺であってお前じゃない』