王子様の献身と憂鬱
彼女の手が右の引き出しに伸びる。文具類と一緒にそこに入っているのはハンドクリーム。効きすぎているエアコンの乾燥に加えて、紙を触りすぎたせいで指先がかさついている。
取り出して手の甲と指に伸ばすと、塗った部分がじわりと温かくなった。
「……何か凄い強烈な匂いするんだけど」
「え、そんなに臭う?なんか手がカッサカサだからさー、今ハンドクリーム塗った所」
「映見が使ってるのってestelleのじゃなかったっけ。あれパケ可愛いのにこんな匂いすんの?」
「違う違う、estelleのは見せハンドクリーム。見た目可愛いし香りは最高だけどあれじゃ全然物足りないからこういう時はこっち使ってる」
そう言って彼女がペンの入ったトレイの下から取り出したのは『薬用』とデカデカと書かれた可愛げの欠片もない無骨なチューブ。蓋を開けると鮮やかな蛍光カラーの軟膏がツンと鼻腔を刺激する香りと共にのぞく。
「ビタミンAって書いてあるからそれの匂いかな。でもこの匂い強烈だけど慣れると癖になるんだよねー。塗るとジンジンするけどそれも効いてるって感じがして。荒れてるのも一発で治るし潤うのにベタベタしないから意外と使い易いよ」