眠れる夜の星屑涙
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「音楽でもかけるか?」
「気が散るから、いらない」
「もっと肩の力抜けよ」
指示通りに次々と作業をこなしながら、彼は涼しげな顔をしている。
無茶を言わないほしいと思った。私はあなたほど頭の回転が速くない。
黙り込むと、彼も口をつぐむ。
人の声が消えると、窓の外から夜が一層忍び込んでくる。
こんな時間に、こんな場所で、私はいったい何をしているの?
油断するといろいろなことが頭に浮かんだ。
女だからと馬鹿にされ、それでも必死に働いて、ようやく任された大きな仕事。
本当は、田中くんがわざと間違った書類を持っていったことにも気づいていた。彼は私を敵視している同僚男性に可愛がられている。
涙がこぼれそうになって、唇を噛み締めた。
「梨花」
向けられた目に、涙を隠す。
「俺だけ見てろ」
「え……?」
真っ暗に閉じたオフィスで、彼だけが私を照らしていた。沈黙に、わずかな温もりがにじむ。
「俺だけは、お前を裏切らない」
私はこれまでひとりで頑張ってきた。
足を引っ張られても、心が折れそうになっても、誰にもすがらずにひとりで歩いてきた。
そのつもりだった。
「俺はいつも、梨花を見てる」
頬を一筋、涙がつたい、あわてて拭う。
「う、うるさい。黙って仕事して」
言いながら、顔が熱く染まっていくのを感じた。