定時になるまであと5分
定時になるまであと5分
今日、定時に会社をあがったら、
私は婚姻届を出しに行く。
「えーっと……これで全部かな?」
夕方、退社する定時までの時間は残りわずか。
私は自分のデスクに点々とと放り出した物たちを眺める。
名刺、社員証。あとはシステム関連の名義変更依頼書。たくさんある気がしていたけれど、用意してみればそんなこともない。入社当時の写真が嵌められている社員証には〝国橋 まどか〟と私の名前が書かれている。
それを不思議な気持ちで見ていた。
国橋。くにはし。
27年間ずっと私の名前の半分を占めていたその文字列は、あと数十分後には〝旧姓〟と呼ばれるようになる。
私はこの後、定時で会社をあがったら、その足で彼と婚姻届を出しに行く。今日はそんな一大イベントが待っている。
だから今は、旧姓が使われている物の片づけをしているところだった。せっかくだから気持ちだけでも、明日からはすっきりと新しい姓を、彼の姓を名乗ろうと思って整理をしている。新しい名刺は、もう印刷が済んで手元に届いている。新しい社員証も、明日になれば総務部からもらえると聴いている。システム関連は今日申請書を出せば、追々にはなるだろうけど新しい名字に一新されていくだろう。
ふぅ、と一息ついて。
自分以外外出したり打ち合わせで席をはずしたりしているオフィスはとっても静か。夕日が差し込んで室内を赤く染めて、なんだか寂しい気分にさせられる。
別に会社をやめるわけでもない。
明日も私はいつもと変わらぬ顔で出社するのに。