あなたは今夜、私のものになる。【ぎじプリ】
「おい、水上、なにやってるんだ!」

 驚いた男性の声に、私はビクッと肩をすくめた。おそるおそる振り返ると、この課の課長が険しい表情で立っている。

「か、課長!」

 見られた!?

 あわてて彼を背中でかばったけれど、ときすでに遅し。

 課長はつかつかと私のところに歩いてきて、私の肩をぐいっと掴んだ。

「ごめんなさい! 誰にも言わないで……悪いのは私なんですっ!」

 必死で懇願する私に、課長が口角を引き上げて笑い、私の背後を覗き込んだ。

「隠したって無駄だ。匂いでわかる。今日は豚骨ラーメンか」
「だって、残業してたらお腹空いちゃって……」
「まあ、取引先からもらった試食品だから、誰が食べてもかまわないが」
「私、この豚骨味が一番好きなんです」
「オフィスの隅にずいぶん積んであったのに、ほとんどなくなってるな」
「えへへ、私がだいぶ食べちゃいました」

 バツが悪くなって笑ってごまかす私に、課長が問う。

「仕事はあとどのくらいだ?」
「一時間くらいで終わると思います」
「じゃあ、終わったらカップラーメンよりうまいもの、食べに連れて行ってやる」
「ホントですか?」
「ああ。しっかり仕事してこい」

 課長が私の頭にぽんと手をのせた。大きくて温かい手。

 お腹はカップラーメンくんが満たしてくれるけど、やっぱりハートを満たしてくれるのは、この上司だったりするのです。

【了】


残業中に小腹を満たしてくれるカップラーメンの擬人化でした。
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