・君が望むなら
「嫌な事は、全部忘れちゃえ。こうしてリセットすれば、また新たな気持ちで仕事と向き合えるよ」


彼は数字の修正箇所を真っ白にする魔法をかけた。


「……数字が、消えた……。何にもプリントされてないみたい」

「だろ? で、ここに新たに書き込めば……」


彼に促されるように、ペンを走らせると新しい数字が列を成す。


「ほら。直った」

「ふふっ。ホントだ」


修正を終えた箇所を見ながら笑っている私に、彼は囁いた。


「数年前は、君の間違いを修正する手伝いが多かったけど。今はこうして誰かの間違いを修正してやれる社員に成長してるじゃない。それも凄い事だと思うよ。自分の仕事に自信を持っていいんだよ」

「……そうかな」

「そうだよ。まぁ、君の間違いは何時だって俺が正してやりたいと思っているけどね」

「もう! 新人の時みたいな間違いのオンパレードはしないってば」

「知ってる。だから俺の出番も最近は少ない事も」

「ごめん」

「謝るなよ。いい事なんだから」


私は残りの資料に手を伸ばす。
まだまだ何部もある手直し。

果たして彼は本当に全部終わるまで付き合ってくれるだろうか。


「ねぇ。未だこんなに残ってるけど。大丈夫?」

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