幼ぶるヒツジ
長い髪をサラリと揺らして、開いたばかりのドアに慣れた仕草で入ってくる。
こいつは制服で来るなと何度言えば分かる。
「あゆな、帰れ。今はマジでやばい」
「なんで?晩ご飯のお裾分け持ってきたのに」
「ツレが来てる。それはもらうから、早く帰れ」
「帰りは柊ちゃんに送ってもらいなさいってママに言われてきた」
「……ふざけた親子だな」
じゃあ最初から俺を呼び出しゃ話が早いだろうが。
娘を寄越す意味ないじゃん、気づこうよ。
「女の子の声がする!」
飢えた狼――――といえば表現が格好良すぎるが、とにかく女子を渇望してやまない亮が玄関に続くドアを勢いよく開けた。
「リアルJK!神様ありがとうございます!」
「馬鹿!お前の餌じゃない!」
「なんだよ一人占めとはずるいぞ柊弥!」
「こいつはそんなんじゃねーんだよ」
「え、つーか本当に誰?」
太った狼が制服姿のあゆなを品定めする目で見始める。
面倒くさいながらも、俺はその間に壁になるべく割り込んだ。
「どけ、見えない!」
「見なくていい」
「警察呼ぶぞ!」
「こっちが先に呼んでやらあ!」
背中に隠したあゆながクスクスと可笑しそうに笑っている。