幼ぶるヒツジ
「こんばんは、お友達サン。あゆなです」
「こら!」
ぴょこんと身体を倒して、壁の俺の隣にあゆなが顔を覗かせた。
「か、かわ……っ!こんばんは、この家に何の御用でしょうか?」
亮の目が輝く……ああもうイタくて見ていられない。
「柊ちゃんにごはん持ってきたんです。ついでに一緒に食べようと思ってます」
「ボクもご一緒していいでちゅかあぁーー?」
「帰れ変態!」
“強制送還”
俺の頭はそれが最善であると答えを出した。
もちろん亮の方をだ。
あゆなを玄関に立たせたまま、部屋の中に散らばっている亮の荷物を無造作に詰め込んで、最後に一番の大荷物(本人)の腕をつかむ。
「おい待て、あの子お前の妹なのか?超可愛いじゃん!」
「違う。腐れ縁の幼馴染みで、俺はただの隣りに住む兄ちゃんだよ」
「なんだ。だったら俺も……」
「やめてくれ。あゆなの世話見ることに関しては、おばさんに信用されてんだ。お前はそれをぶち壊すつもりだろ」
「おう。俺は約二十年筋金入りの紳士だが……そっち方面に進みたい野望はある」
亮の手がワキワキと妙な動きを見せる。
……空気を揉むな!空気を!
「今度なんか奢ってやるから、とりあえず今日は引き取ってくれ。悪い」
「柊弥くん……タクシー代」
「親に貰えよボンボン」
上目づかいで差し出された厚かましい右手を、俺は根限りの力で叩き落とした。