オレンジジュースとアイスコーヒー
「じゃあ、そのメロンパン屋? 行ってみるよ。わざわざありがとう」
「……それ教えるためだけじゃないんだけっ、」
盛大なくしゃみ。見れば、佐久真は中でのときの服装と変わっていない。あたしはコートを着たまま見ていたからいいものの、ステージに上がっていた佐久真はあたしよりもずっと薄着だった。
自分の首のマフラーを外して、佐久真に差し出す。
「あとで返してもらうから、とりあえず。見てるこっちが寒いじゃん」
「ははっ、ありがとう。じゃあ遠慮なく借りるね」
細長い指先。楽器を掻き鳴らす、綺麗な指だ。渡したときに触れたそれは、もう冷たかった。
寒さよりも、あたしのために来てくれたんだ。
「うん」
「よし、行こう。ごめん、僕の手冷たいかも」
「えっ? 佐久真、ちょっと、」
付き合って、1ヶ月にならないくらいのあたしたち。いつも歩くときは、隣を歩くだけだった。
それが、初めて手を繋いだ。
……何で、今そんなことするの。ずるい。
この状況で別れたいなんて、あたしにそんなことを言える勇気がない。
まさか佐久真、わかってるわけじゃないよね?