オレンジジュースとアイスコーヒー
隣の佐久真が、ポケットを探していることに気づいて「あたしが買うよ」と覗き込んだ。
急いで来たから、財布忘れたとかそんなとこでしょ。どうやらその予想は、当たりらしかった。
「あとで返すから、お願いします……」
「いいよ。それより、佐久真はどれにするの?」
しおらしくなりつつも「チョコチップ」と、ちゃっかりしている。追加で1つお願いすると、やりとりを見ていた店主がおまけだとラスクをつけてくれた。
何か、こうしてると普通に彼氏彼女みたいだな。まだそうではあるんだけど。
佐久真とデートなんて、放課後ちょっと寄り道するくらいしかしたことなかったし。それで充分だった。
離れた手を寂しく思うなんて、今更どうかしてる。
「どうもありがとう。今度は僕が何かご馳走するね」
「いいよ。メロンパン1つくらい大したことないし」
「そこは何か考えてよー」
「あー、じゃあ考えとくよ」
「わかった!」
結局、その日は何も言うことができなくて。帰りに送ったラインも、ライブの感想しか送ることができなかった。