オレンジジュースとアイスコーヒー
◇◆
佐久真の歌声は、やっぱり綺麗だ。
って、違う。そうじゃない。何がどうしてこうなってるんだ。
別れを告げることができないまま数日が過ぎて、なぜか佐久真に誘われてカラオケに来ている。これも初めてのこと。
でも喜んでる場合じゃない。歌声を聴けるのは嬉しいけど、あたしは佐久真とこんなことをするべきじゃないんだから。
「次空井さんだよ」
いっそ別れるという選択肢をやめて、このままでもいいのかな。でも、それならそれでちゃんと今の気持ちを言わないと。
黙ってたほうが、いいのかな。それって、あたしだけが楽なことなんじゃないかな。
「ねえ、佐久真」
「うん? あ、飲み物とってくるよ。何がいい?」
「……オレンジジュース」
すっと立ち上がって、佐久真は行ってしまう。きっと感じ取っていることはあるんだと思う。
それを避けられているということは、佐久真の意思は別れたくないということでいいんだろうか。あたしが都合良く解釈してるだけなんじゃないのかな。