オレンジジュースとアイスコーヒー
音楽が流れ始めても、マイクを持つ気にはなれなかった。
ライブを見に行かなければ、あたしはまだきっと佐久真に付き合ってあげているつもりでいたと思う。ライブに行ってちょっと自分の気持ちが変わったから、このままいたいなんて虫が良すぎる話じゃないんだろうか。
あー、もう。全然わかんない。
あたしが別れたいのかと訊かれたら、別れたくないけど。でも、そうだなあ。ちゃんと言うべきは言ったほうがいいのかもしれない。
「あれ、歌わなかったの?」
しばらくして、自分の分のアイスコーヒーと、あたしのオレンジジュースを持った佐久真が戻ってきた。
言おう、ちゃんと。
「佐久真、話したいことがあるの」
「……うん、何?」
音楽が終わって、コトリとコップを置く音がした。すぐにCDの宣伝が流れ始めて、静けさはなくなる。
「別れよう」
続けて何を言ったらいいかわからなくて、言葉に詰まる。佐久真は驚いた顔を、しなかった。