オレンジジュースとアイスコーヒー
楽器の演奏は、たぶんまだまだなものだとあたしでもわかる。歌声だって、未熟なものなんだろう。
だけど、聴こえてくるすべての音が心地良かった。何だかちょっと、泣きそうになるくらい。
佐久真の歌声、はっきりしててあたし好きだな。しゃべってるときと歌声は別物だ。佐久真いっつもぼそぼそしゃべるんだもん。
こんなに歌詞がちゃんと聴こえるくらいに歌える人だ、はっきり話せると思う。
……ああ、違うかも。あたしがちゃんと聞いていなかったのか。
思い返す佐久真は、いつもあたしを気遣っているようだった。
教室より少し広いくらいのライブハウスは、狭い。それなのに広く感じるくらいお客さんがいない。それが恥ずかしくて、後ろの隅の方でひっそりと見ていた。
でも、やめた。ちゃんと見たいと思ったから。
ごめんね、佐久真。
「がんばれ」
ステージに歩み寄って、小さく、小さく呟く。エレキギターを弾きながら前を見ていた佐久真と、ばっちり目が合った。
君のことを、ちゃんと見ていなくて。こんなにかっこいいなんて、何ひとつ知らなかったよ。本当は普段から、もっとかっこいいところがたくさんあったのかもしれないよね。
付き合ってあげているつもりだった。なんて、最低だったね。