オレンジジュースとアイスコーヒー


楽器の演奏は、たぶんまだまだなものだとあたしでもわかる。歌声だって、未熟なものなんだろう。

だけど、聴こえてくるすべての音が心地良かった。何だかちょっと、泣きそうになるくらい。


佐久真の歌声、はっきりしててあたし好きだな。しゃべってるときと歌声は別物だ。佐久真いっつもぼそぼそしゃべるんだもん。

こんなに歌詞がちゃんと聴こえるくらいに歌える人だ、はっきり話せると思う。


……ああ、違うかも。あたしがちゃんと聞いていなかったのか。

思い返す佐久真は、いつもあたしを気遣っているようだった。


教室より少し広いくらいのライブハウスは、狭い。それなのに広く感じるくらいお客さんがいない。それが恥ずかしくて、後ろの隅の方でひっそりと見ていた。

でも、やめた。ちゃんと見たいと思ったから。


ごめんね、佐久真。


「がんばれ」


ステージに歩み寄って、小さく、小さく呟く。エレキギターを弾きながら前を見ていた佐久真と、ばっちり目が合った。

君のことを、ちゃんと見ていなくて。こんなにかっこいいなんて、何ひとつ知らなかったよ。本当は普段から、もっとかっこいいところがたくさんあったのかもしれないよね。

付き合ってあげているつもりだった。なんて、最低だったね。


< 2 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop