オレンジジュースとアイスコーヒー
「別々ならいいけど、混ざったら不味い。余計不味い」
「えー、そんなに!? 一瞬じゃわからないでしょー」
「いやいや。わかる」
電車が来た知らせが聞こえて、そちらに目を向ける。濁った黄色の電車が、もうすぐ到着する。
やれやれというような冬和が先に立ち上がって、手を差し出すものだから。
「もうっ」
その腕を強く引っ張ってやった。予想されてたのか、びくともしなかったけど。さすがはあたしのことわかってる。
口を尖らせつつ、その手を握った。
別れていたら、なかったこの手の温もり。落ち着く。ちょっとずるいけど、冬和のあの歌に感謝だなあ。
あの澄んだ歌に、ハッとさせられた。
「ん? どうした?」
なかなか動かないあたしに、冬和は首を傾げる。心地良く響く、冬和の声。
君のその声が好きだよ、なんて口には出さないけどね。
「ううん。何でもないよ」
いつかはきっと言うけど。今は言わない。恥ずかしいから。
もし言ったら、どんな顔するかな。想像しただけで笑ってしまうと「何だよー」と冬和に小突かれてしまった。
君は真っ赤になるに決まってるんだから、今に見てろよ。冬和にもう一度何でもないよと言いながら、密かにそう思うあたしだった。
*END*