オレンジジュースとアイスコーヒー
端正な顔に見つめられた照れ隠しに、オレンジジュースを一気に飲み干す。甘ったるかった。
自然なタイミングであたしの手から紙コップをとって、捨てに行く佐久真。今日はいつも見えてなかった、佐久真のひとつひとつの行動の優しさが見える。
超いいやつじゃん。佐久真って。
「冬和の彼女さん?」
「ああ、えっと、ベースの人?」
目の前に立った人は、たぶんさっきステージで左側にいたベースの人だ。クラスメートじゃないから、知らない。佐久真と違って、チャラそうな見た目。
「そう、ベースです。来てくれてありがとう。さすがに俺ら目当てひとりもいないと悲しいし、チケット捌けないと困るからさ。すげー助かりました」
ちょっとごめん、と腕を引っ張られる。出入口から遠ざかって隅に連れていかれたものだから、つい警戒してしまった。
「あ、怪しいことじゃなくて。冬和のこと怒らないでやってってことを言いたくて」
「怒る?」
「俺らでも女子誘ったんだけど、予定被ってたり乗り気じゃなかったりであんま誘えなかったから。男ばっかじゃ、感想も片寄るだろーし。冬和に彼女呼んでくれって無理に頼んだんだよ。だから、あいつのことは怒らないでやって。
悪かったの、俺らだからさ」
やたらしつこかったのは、頼まれたからだったんだ。言われてみればあのしつこさは、佐久真にしてはおかしかった。