オレンジジュースとアイスコーヒー
「空井さん、もう帰る?」
「うん。駅までは商店街を通るだけだし、適当にぷらぷらしたいから、見送りはなくていいよ」
自分の中にある気持ちが揺らいでどうしようもないから、今はひとりになりたかった。
「そっか。じゃあ、また学校でね」
「うん。ありがとね」
どうしてか、泣きそうになった。
階段を上がって外に出ると、寒さがしみる。リュックからマフラーを取り出して、ぐるぐると首に巻き付けた。
「あーあ、」
星の見えない闇空を仰いで、息を吐くと白かった。別れたほうが、きっといいよなあ。
顔だけが好みで付き合ったあたしより、佐久真を大事にしてくれる人がいると思う。あの受付の子みたいに。佐久真が誘った子みたいに。
あの澄んだ歌声。良かったなあ。佐久真の高音、とても綺麗だった。
部活程度なのか、デビューしたいくらいがんばっているものなのかは知らない。でも、あたしにはテレビに映るバンドマンより、佐久真の声のほうがずっと好きだ。