僕を美味しく召し上がれ。
だから私は痩せたいんだってば。
 
「はい、あーん」

「や、今はちょっと……」

「里桜ちゃ〜ん、あーんしてよ〜」

「だから今は無理なんだってば」


鼻先にチョコレートバーをちらつかせながら甘えた声を出し、隙あらば肥満の道へと引きずり込もうとしている彼に、私はそっぽを向く。

ちょっと冷たいかな、とは思うけれど、なんせ今の時刻は午後21時を少し過ぎたあたり。

彼の誘惑と甘い香りに負け、1本くらいならまあいっかとチョコを食べてしまえば、今までの努力が全部水の泡になってしまうのだ。


--そう、今私は、まさにダイエット中。

何が何でも20時以降は絶対に食べられない。


「大丈夫だよ、僕、ぽっちゃりな子が好きだから。それにチョコは集中力や記憶力、注意力を高める効果があるんだよ。さっきからタイピングミスばっかりしてる里桜ちゃんには、今はチョコと休憩が必要だと思うよ?」

「……」


しかし彼は、20時以降は絶食という鉄の掟を立て一ヵ月ダイエットを頑張ってきた私の努力をいとも簡単に無かったことにしようとする。

油物と炭水化物を控え、たんぱく質と野菜中心のヘルシーメニューで3キロ減、目標まであと2キロという今がまさに折り返し地点だというのに、なんでそんなことが言えちゃうのよ。

夜食は厳禁なの!

ミスばっかりなのは認めるけど、チョコの効果も知ってるけど、私を太らせないでってば。
 

< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop