こい-みず 【恋水】(ぎじプリ)
全てを諦めたようなその表情は、まさに去りゆく者のそれだった。何の欲もない、清々しいまでの微笑。
「墓場、というのも大袈裟な話ではないのです。元の会社に戻っても、私のような古い人間にはもう居場所はありません。どこかで、静かに余生を送るとしますよ。」
「そんな…私はまだまだ、広岡さんに教えていただきたい事が沢山ある、のに…」
この人を、孤独にしたくなかった。
理由なんて、それだけ。
たったそれだけのことで、女は随分大胆になれるものだ。
「だったら…っ、わたしの部屋に、来てください!」
「……紫さんの…部屋、へ?」
そしてどうやら、勢いあまった私は言葉の選択を間違えたらしい。
さっきまでの悟り顔は何処へやら。気付いたら、見たことのない淫蕩な表情に変わっていた。自分の言葉に広岡さんが何を想像したのかが分かって、途端に顔が熱くなる。
「や、あの、違うんです、部屋ってその…そういう意味じゃ、」
「紫さんは、意外と大胆な方ですね。」
「ですから…っ! ん、もう、広岡さんはズルいです。分かってるくせに…っ!」
ああもう。
これが、人生経験の差ってやつ?
いい歳のおっさんのくせに、ダダ漏れしてるこの色気は一体どこから湧いて出てくるのよっ!?