仮氏
しばらくして、近くの海浜公園に着いた。

「ちょっと歩く?」

「う、うん」

私は車を降りて、彼の後についていった。

「座る?」

彼は観覧車の見える海辺のベンチに腰掛けた。
私も後から座る。

「もっと、こっち」

彼は私を引き寄せた。
そんな、些細なことなのに私はドキドキした。

「莉音は彼氏とかいるの?」

「いないよ。仕事ばっかり」

「莉音っていくつ?」

「29」

「俺27!」

「隼くんこそ彼女は?」

「俺もいない」

「ふぅん」

私は月光でキラキラ輝く海面を眺めていた。

「何で彼氏と別れたの?」

「いろいろあるの、大人だから」

「意味わかんねー」

「隼くんこそなんで別れたの?」

「束縛ひどくて。俺はある程度は受け入れるんだけど、ひどくてさ。暴力とか振るわれたから、逃げた的な」

「え…大変だったんだね」

軽そうだなと思ってた彼だったけど、意外と壮絶な経験をしてることに驚いた。

「力では男が勝つの当たり前じゃん?だから耐えてたんだけどねー。限界があるよね」

「うん…。」

「莉音は、彼氏できそうだけど」

「私、恋愛に向いてないから。恋人が1番!恋人が最優先みたいな大抵の女の子みたいな考え方できないし」

「うん」

「それに、あんまり気持ちを言葉に変えるのが得意じゃないし気持ちが表情に出ないから何考えてるかわからないって言われる」

「うん」

「俺ばっかりが好きで、莉音はそんなに好きじゃないんでしょ?って。好きだから付き合ってるのにね」

「そういうさー、お互いのこと分かり合って考えを擦り合わせてくのが恋愛なんじゃないの?ちょっと一緒にいたぐらいで相手のことわかったらみんな苦労しないし」

またまた予想外の彼の言葉に驚いた。
意外とちゃんと考えてるんだ。
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