仮氏
それに、彼はちょっと愚痴っぽい私の話をうんうんと聞いてくれた。

「てゆーかさ、莉音こっちみないよね」

「えっ？」

「なんで？」

「そんなことないよっ」

「緊張してるんだー？」

「してないし」

嘘。本当は緊張してる。
別に男性と関わったことがないわけでもないのに、なぜか緊張した。

「こっち見てー」

私は彼にグイッと顔を向かされた。
目の前の彼はにこっと笑っていた。
年下のくせに、ちょっと余裕があるその態度がなんだか気にくわない。
ぱっちりしたその瞳は海面の光が反射してキラキラしていて、吸い込まれそうになる。

3秒くらい、彼と目が合った。

そして、彼はそのまま口づけをした。

一瞬、どうしてこうなったのかわからなかった。
頭の中で、なんで？がいっぱい浮かぶ。
それと同時に、彼の口づけは深くなる。
私の身体は自然とそれを受け入れる。

今までなんどもしたことがあるから反射的にそうなってしまったのか、相手が彼だからなのかわからない。
だけど、彼に応えるように私も深い口づけをした。

「顔、赤いよ？」

ようやく唇が離れると、彼はそう言って私を抱き寄せた。
それから、また私にたくさんキスをした。
< 12 / 138 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop