仮氏
「あるよ。でも、うまくいかなかったから今も独身なんじゃない?」

「理由とか、聞いてもいい?」

「簡単に言うと、彼のご両親が結婚に反対したから」

私が恋愛に向いてないと思ったのは、ここに理由があった。

「え…なんで?」

「私ね、21の時に母を病気で亡くしたの」

「え…」

「それを知って、彼のご両親が良く思わなかった。結婚したら、彼の地元で暮らすつもりだったんだけど彼、九州が地元なの。私の父に何かあったら結局こっちに戻るんじゃないかとかそんなこと言われたっけ」

「そんな理由で」

「そんな理由で。私、母に何もいいことしてあげられなかった。後悔しか残ってない。だから、彼のご両親のこと考えたら頑張って認めてもらうより、彼の地元で素敵な人を見つける方が彼にとっても幸せなんじゃないかって思ったの」

私が話すことを彼は黙って聞いていた。

「きっとすぐに相手見つかると思ったし」

「莉音から別れようって言ったの?」

「うん」

「やだって言われなかった?」

「言われたけど、最終的には納得してもらったよ。親が生きてる人にとっては、親がいなくなった時のことはわからないじゃん。でも、私は知ってる。話を聞くと彼は末っ子長男で大事に育てられたんだなって思ったし、この一時の感情で駆け落ち的なことしたとするじゃない?でも、絶対に時が過ぎると彼が後悔するって思ったから。」

「うぅーん」

「頑張って認めてもらおう!って思わなかったから、大して好きじゃなかったのかもしれないね」

私はそう最後に言った。

「俺、次男でよかった」

彼もおどけてそう言ってくれた。
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