仮氏
次の瞬間、私は男に腕を引っ張られその勢いで持っていたカップを離してしまった。

バシャ…

向かいから歩いて来た男の子に当たり、中身が溢れてしまった。
それを見て、私をナンパしてきた男はパッと腕を離して人ゴミに紛れようとした。

「ちょっとー、それはないんじゃないの?おっさん」

ミルクティーをかけてしまったその彼は、私をナンパしてきた男にそう告げた。

「すっ、すいません…」

男は情けない声をあげてそそくさと逃げてしまった。

「すいません、やけどはしてないですか?」

私はかかってしまったミルクティーを必死でハンカチで拭った。

「大丈夫。お姉さんこそケガしてない?」

「私は大丈夫です」

「よかった!…じゃあね」

彼はそう言ってその場を立ち去ろうとした。

「あ!ちょっと待って」

私はバッグのボールペンを取り出し、ハンカチに携帯番号を書いた。

「クリーニング代お支払いしますので、代金わかったら連絡してください。迷惑でしたら、ハンカチごと捨てて構いません」

私はそう言って彼にハンカチを押し付けた。
少し呆気に取られていたような顔をしたけど、彼はオッケー、と言って街の中に消えていった。
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