仮氏
そんな出来事もあったなぁ、と忘れかけていたころのこと。
私のスマホの着信音が鳴った。
見ると知らない番号。

「もしもし…」

恐る恐る出る。

「あ、もしもし?わかる?」

聞き覚えのない声。

「…ごめんなさい。ちょっとわかりません」

私は正直に答えた。

「だろうねー。ミルクティーの男です、って言ったらわかる?」

記憶を少し辿って、彼のことを思い出す。

「あ!あの時の…。その節はありがとうございました。クリーニング代おいくらでしたか?」

と私は言った。

「クリーニング代なんていいよ!俺、おしゃれとかよくわかんないし!ただ、お姉さんのこと思い出したから、かけてみただけ」

「あ、そうなんですか…」

「だってなかなかいないよね!ハンカチに番号書いて、迷惑でしたら捨てて構いません!って言うだけいって去っていく人!」

「あの時はメモ代わりになるものがなかったから…」

「だから、なんか記憶に残っちゃってさ」

「はぁ…。」

「お姉さん、名前は?」

「莉音です」

「ふーん。俺は隼(しゅん)。登録しといて!じゃーね」

嵐のようにそう言うと、電話はあっという間に切れた。
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