仮氏
残業を終えて、ソファーに身を委ねる。
つけたテレビをぼーっと見つめた。
変わりばえのない毎日。
こうやって1日1日過ぎていく。
そんな時、私のスマホが鳴った。

「もしもし…」

「登録してないっしょ」

彼だった。

「か、関係ないでしょ」

「ま、そりゃそうか。何してた?」

「別に何も」

「ん。そっか。またかける」

「はぁ?」

「じゃーね!」

彼は笑いながらそう言って電話を切った。
私は、番号を登録していなかった。
またかかってくるとは思ってなかったし、どうせ暇潰しにかけてきたのだろうとも思っていたからだ。
しかし、どうしたものか。
隼と名乗る彼の番号を素直に登録しておくべきか。
若い子なら、運命かもぉ〜!なんて思って、この先の未来を夢見て登録するだろう。
だけど、一通りいろんな世界を見てきた私は、運命なんてないことも、期待するほど明るい未来も待っていないことを知っている。

私は、結局登録をしないままだった。
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