見えない騎士たち【ぎじプリ】

 毎朝一番に出勤してくる莉子は、部屋に入るとまず、経理課と部屋続きの奥にある給湯室へ向かう。

 そこで掃除用の台ふきを絞ると、真っ直ぐ俺たちのところに戻ってくるのだ。

「さてと。わ……課長、いつも机の上キレイにしてるな~」

 とてもかわいらしい声で、彼女が俺のことを褒める。

 朝からいい気分だ。
 さすが、莉子。

 そして台ふきで優しく俺の天板を磨き、隅のホコリも丁寧に拭き取ってくれる。

『あーもー! いいな~、デスクばっかり!』

 横でプリ男がブチブチ文句を言う。

 ふん。当然だ。
 デスクよりプリンターを優先する馬鹿がどこにいる。

「これでよし、と。あれ? ヤダ、課長ったら。プリンターの電源入れっぱなしで帰ったのかな」

 莉子がプリ男を見て、目を丸くした。

――そうなんだよ、莉子。おかげで朝からうるさくてかなわない。

「スイッチは……」

 莉子は、プリ男をキャスター付きの台ごとクルッと回した。

 プリ男は複合機ではなくコンパクトプリンターだから、莉子の華奢な腕でも余裕で動かせるのだ。

『ひゃっ! 莉子ちゃんっ、くすぐったいよっ』

 プリ男が珍妙な声を上げた。

 その声はえらく嬉しげに聞こえ、俺はかなり面白くない気分になる。


「課長もすぐ来るし……そのままでもいっか」

 スイッチを切るのを諦め、莉子は給紙トレイを引き出した。

 台の下から用紙の束を掴みトレイにセットすると、プリ男は満足げな声を漏らす。

『はふぅ~。ありがと、莉子ちゃん』

 俺はイライラして、吐き捨てるように言った。

『気持ち悪りぃから、奇妙な声出すんじゃねーよ! プリ男の分際でっ』

『ふん。デスクの嫉妬は醜いねぇ』

 莉子に構われているせいか、プリ男は余裕しゃくしゃくな態度だ。

 俺はますますムカついて、思いきり怒鳴ってやった。

『うるせー! お前とはもう口きかねー。いっそのこと、コンセントから抜かれちまえ!』
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