見えない騎士たち【ぎじプリ】
だがその日、課長が引き出しを開けることはなかった。
一度は手にかけたそれを、俺はどうしても開けることが出来なかったのだ。
どんなに力を入れてもビクともしない引き出しに、課長は不思議な顔をしながらも「まぁ、いいか」と呟いて、手を離した。
莉子の想いは届かない。
届いていない――俺のせいで。
一部始終を見ていたプリ男は、日々暗くなっていく莉子の表情を見る度に『おい、馬鹿デスク』と俺を罵った。
『見損なったぞ、デスク。お前には莉子ちゃんの、あの悲しそうな顔が見えないのかよっ』
――うるさい、うるさい、うるさい!
分かってるんだ、俺だって。
どんなに俺が莉子を想っても、その気持ちも、存在すら彼女には気づいてもらえない。
悔しかったんだ! ――そして、うらやましかった。
莉子と見つめ合い、話をし、彼女に想ってもらえるアイツのことが。
『莉子ちゃん……最近、課長から距離置いてるぞ』
『えっ』
『返事がもらえないから、失恋したって思ってるんじゃないかな』
――莉子!
俺はその時初めて、引き出しを開けなかったことを、本気で後悔した。