史上最悪!?な彼と溺甘オフィス
気が動転していた私に代わって、タクシーの手配から病院への道案内まで全て霧島さんが済ませてくれた。


真夜中なのが幸いしてタクシーは渋滞に巻き込まれることなくスムーズに病院へと向かっていく。

病院が近づくにつれ不安が募る。
身体が冷え、カタカタと無意識に指先が震える。


「大丈夫だから。心配するな」

震える指先に大きな掌がそっと重なる。
こわばっていた身体から、ふっと力が抜けた。


大丈夫なんて誰にもわからない。

けど、霧島さんがそう言うなら大丈夫なんじゃないかって思えてくるから不思議だ。



病院についたとき、母は手術室の中だった。

テレビの中でしか見たことのない、あの緑のランプの下で立ちつくす私に霧島さんは何も言わずにそっと寄り添ってくれた。

かたく繋がれた手が私を支えてくれた。



こんな温もりがあるなんて、知らなかった。


こんな風に誰かに守ってもらうのは初めてだった。


抱き合って眠る夜よりも、ずっとずっと霧島さんを近くに感じた。





「ーー後遺症についてはまだ何とも言えませんが、命に別状はありません。
もう大丈夫です」

明け方、医師からその言葉を聞いて思わず涙が零れた。


縁を切ったつもりの、どうでも良いと思っていた母にこんなにも情が残っていた
ことに自分でも驚いた。
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