史上最悪!?な彼と溺甘オフィス
「何やってんだよ、お前は」

パシっと後ろから頭をはたかれて、振り返る。

走ってきてくれたのか霧島さんは少し呼吸が乱れていた。


「入れよ」


渋谷まで行くと言い出した私に今日はもう帰るつもりだったから部屋に来いと言われて、霧島さんのマンションの前で待っていたのだ。


ものすごく久しぶりの霧島さんの部屋は相変わらず殺風景だった。


「で、どうしたんだよ? 」


「霧島さん、会社辞めちゃうんですか?」


「噂、はやっ。女のコミュニティーは恐ろしいな」


「本当なんですね」


「昔の同僚に誘われてるのはほんと。
まだ決めかねてるけどな」


「霧島さんなら成功できると思いますよ」


「・・そう思うなら、お前も一緒に来るか?」

本気とも冗談とも取れる口調でそう言うと、霧島さんは挑発的に私を見つめる。


「行かないです。私は今の会社で定年迎えて、退職金満額もらいますから」

きっぱりと言い切る私に、そうだったなと霧島さんは笑う。

私は今の会社が好き。
育ててもらった恩を返したいから、霧島さんとは行けない。


「引き止めてくれるのかと思ったけど違うみたいだし、何しに来た?」
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