七色の空
チャプター80
「無器用な兎」
〜つづき3

「みよ」の一件がなくとも、福生がまゆらと結ばれるといったシナリオは存在しない。まゆらの前から姿を消そうと心に決めた福生だったが、福生より早く、まゆらのシナリオは動き出す。まゆらは福生よりも安定した生活があり、身動きも軽やかだ。まゆらは3年努めた保育園から隣町の保育園へ転勤することになった。それは、保育園側の都合という建前だったが、「みよ」が隣町に引越しするのを機に、まゆらが転勤希望を申し出た結果だった。もちろん福生はその事実は知らない。想いを寄せる女性にも、福生と同じ様な想いがある。まゆらは自分の想いを実らせる為、愛する男性のあとを追った。
取り残された福生に残ったものは?それは思い出ではなく、切なさではなく、廃墟。
 福生の住む心の牙城には、利用することのない部屋がいくつも存在し、埃を被ったまま放ったらかしになっていた。
まゆらと出会い、この数年で大分綺麗に掃除された部屋であったが、福生が利用しない部屋に鍵を閉め、掃除しなくなってしまうことで、また以前の状況へ戻ってしまう。
ウサギは触れられないでいると、寂しくて死んでしまうという。廃墟のような牙城で、無器用なウサギはもぉ大分長い間、優しさに触れることなく暮らしてきた。無器用なウサギは牙城を捨て旅にでる。上京したのは旅する為だ。まゆらとの出会いに浮かれ、本当の目的を失いかけていた。
残された廃墟に、その後、福生が戻ってくることはない。福生は優しさを求めてソコをあとにしたのではなく、優しさを必要としなくなった心でソコを出ていったからだ。
まゆらがいなくなった日。その日はよく晴れた冬の空が、突抜るように鮮やかなブルーに染まり、真っ白な雲を浮かべていた。
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