七色の空

スパイダー蝶に乗って

チャプター81
「シャルうぃーダンス?」
目覚めると、林檎が手を握っていてくれた。まゆらの思い出を夢の中で遡っていた福生は、2日間もの間、ずっと眠りの中だった。目覚めた時の気分は上々だ。捨て去った過去に心を締め付けられようとも、その切なさは今を肯定し、過去も肯定してしまう。
過ぎたことは、存在しない。今、手を握る林檎の温もりも死んでしまえば存在しない。これまでの思い出も、心に蓄えた気でいる数々の想いにしても、過去になった時点で既に存在していない。人は、未来の幸せの為に生きているのではない。人は、過去の思い出に寄り添いながら生きていくのではない。
 唯、今の為に、心を躍動させている。その繰り返しが人の一生だ。
 ミスタードーナッツの喫煙席で物語を綴るのも、今の心が躍動するからだ。読まれてしまえば、過去になり、新たな今に何ら影響を及ぼすことはない。また明日が来る。人々は何の為に朝、家を出て電車に乗るのか?
福生が目覚めた時間、いつものように世界は踊る。されど、いったい何が進んでいるのだろう。ベッドの上で、福生は林檎の寝顔を見つめ、目の前の美しい女性とダンスが踊りたいと想うのだった。
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