七色の空
チャプター88
「はッぴぃエンド」
〜つづき5

少女のお腹が少しずつ膨らみ始める。体のラインの出にくい服を選び、巧みに祖母を欺く日々が続くのだ。しかし、祖母は分かっていた。どんなに少女が巧みに事実を隠そうとも、息子のエロ本の隠し場所を母親が完璧に見抜いているように、祖母には少女の心の内が見えている。心が透けて見えるということは、美しい清流の川中を泳ぐ魚が見えることと同じくらい、素晴らしい事だ。汚れていない川、濁りのない心。汚れ濁ってゆく内に、人は自分自身でさえ、心の内が分からなくなってゆく。
汚れた川では生きてゆけない魚がいる。それから比べれば、人間とは、かくも丈夫なことか。ドブ川の中で何十年も生き続ける事ができるのだ。
過酷な人生を強いられた人間は強靭でなければ生きてはゆけない。弱ければ、葦(あし)をすくいとろうと狙っている13番の餌食になる。
人間は強くなくては生きてはゆけない。だが、強くなくては生きてゆけない世界を創りだしたのは人間だ。
この世には神様などいない。そんな福生の想いを物語の中で少女が代弁する。 少女が出産の為に貯めた大事な金が、金に困ったクダラナイ若者に奪われてしまう。少女は監禁され、命と引き換えにキャッシュカードの暗証番号を吐かされた。とてつもない恐怖の中でお腹の赤ん坊を助けて欲しいと命乞いした。胎児もろとも命を奪われてもおかしくない悪意に見舞われた。生きているだけでも運が良かった。しかし、その一週間後、お腹の子供は母親の胎内で生を終える。
少女は心の中で呟いた…「神様、ほんとはアナタなんていない」
少女は、成人してから再び身篭った赤ん坊を捨てる時、それを言い訳にしてその先を生きてゆく事になる。
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