七色の空
チャプター88
「はッぴぃエンド」
〜つづき6

少女は金と子供を失った。その時の喪失感は本人にしか分からない。
 世の中では、悲しみを共有しあう仲間の姿を目にすることがある。他人と共有できる悲しみは、悲しみと呼べる程たいそうなモノではない。只の安っぽいセンチメンタルである。共有する相手が恋人、友人、家族にいたっても同様である。 人は本当の悲しみを抱いた時、他人にも同じ悲劇が降りかかることを望むものだ。いや、味わせたいという悪意を抱く。それは何の解決にもならないことだが、それが素直な人間のありかただ。悲しみに支配されぬよう、人間は永きに渡って学習してきた。しかし、理性をコントロールするには学習が必要なのである。 犯罪がこの世からなくならないのは、その学習が万人に浸透することが当たり前に不可能だから。
少女は神に敵意を抱いている。宗教よりもタチが悪い。
 エリエリレマサバクタニ…
 十字架に吊されたイエスキリストが神に投げ掛けたコトバである。
 汝(なんじ)我を見捨てたもうや…
少女は十字架に吊され、キリストと同じように神に投げ掛けたりはしない。少女は神の存在を否定し、存在するなら自らの手で葬り去る覚悟だ。掌に打ち付けられた釘の痛みなど既に感じない。掌の中央がえぐり取られようが、十字架から我が身を己の力で解放する。
未熟な魂は神を敵にまわし、可能な限りの悪態を身の周りに巻き散らすことでしか前に進めなくなってしまう。
 悲しい十代は二度と戻ってこない…
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