七色の空
チャプター88
「はッぴぃエンド」
〜つづき7

少女のとった行動。思い立ったのは、失った子供の父親の元へ脚を運ぶ事だ。男の住まいを見つけ出し、男の生活、妻・子供の姿を確認したい。こんな楽しい冒険は初めてだ。
少女のロールプレイングゲームはまず、資金調達から始まる。やり慣れた援助交際を利用すれば、100万程度の金は三ヶ月もあれば用意できる。それと平行して、インターネットサイトで代理殺人を依頼できる人物を探す。監禁し、レイプした上、金と子供を奪った輩を放っておく訳がないのだ。正確に言うなら、最後に手をくだすのは少女自身。それまでに犯人を捜しだし、監禁して苦しみを与える為の共犯者を金で雇おうとしていた。
 世の中は便利になったものだ。殺し屋なるものは、一般人が踏み入れない世界かVシネの中だけの話だと思っていたが、マウスをクリックすれば、いとも簡単に何処にでもいる普通の少女と繋がってしまう。
復讐と、ある家庭の幸せを崩壊させる為に、少女は発育途中の身体をボロ雑巾のように汚してゆく…
ここにきて、いよいよ健全な一般サイトへの公開がキビシイのでは?と、思われる内容になってきているとか、いないとか。
 福生が執筆したのは、自分の架空家族を描いた架空の物語である。
林檎は物語をここまで読んで、この先の少女の復讐劇に興味を持ったりはしなかった。林檎が福生に提案したのは、もっと違った少女(福生の母親)の描き方であった。福生の脚本が大賞を授賞したのも、少女の復讐劇がエンターテイメントとして優れていたからではなく、その後の少女と捨てられた子供を通じて語られる家族ドラマが慎ましく、しなやかであったことが評価されたからだった。
醜い少女の半生に目を背けた林檎によって『ジーンリング』と改名された『はッぴぃエンド』は、長い冬を越え、春の訪れを待っていた若葉のように新しい息吹をその身に宿す。
その時、雪解け水が小川にそっと注ぎはじめた。
あと若干、『はッぴぃエンド』の概略説明が必要なのだが、その話は次回にするとしよう。
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