七色の空

ジーンリング

チャプター89
「ジーンリング」

ジーンリングで起きた奇跡をシェフの気まぐれサラダ的に紹介していくことにいたしましょう。
この世の出来事など、所詮ただちに気まぐれになり、全てのことには賞味期限がある。いま抱いている素敵な恋心も…手にした気でいる、最愛の相手と築いた確かな愛も…金や名誉も、誇りも夢も…したたかに生きてきたこれまでの慎ましい人生も…
何てことはない、勝手な人間の思い込み。人間の勘違い。全てはまやかしであり、実体がない。それは、手に掴むことができないZEROである。ZEROに何をかけ(×)てもZEROだとは小学生で習う数学の基本である。 ジーンリングで起きたこと。それは架空の物語がノンフィクションになったという、ただそれだけのことである。ノンフィクションの作品など、この世に腐るほど存在する。しかし、林檎と福生が出会いつくりあげた現実を物語の中へ落とし込むことで、二人は確かにその瞬間、そこにいたということを化石のように紙の中に閉じ込めた。
 二人以外は誰も知らない二人のラブストーリーである。誰も知る必要はなく、二人にとってもいずれはZEROになる。
二人はお互い、人間の人生におけるZEROの公式を理解し共感しあう仲である。ただ、二人はむしろZEROであるからこそ人生を愛し、お互いを愛していた。今も寝台列車のなかで愛し続けている。二人にとってのZEROはイコール死ということではない。二人には、あらゆることがハナからZEROである。
ZEROがイイ、ZEROになろう。こんな歌詞がB'zとかいうアーティストの歌のなかにあったっけ。B'zの世界観よりも遥かに優れた二人のZERO観が『はッぴぃエンド』に入魂され、『ジーンリング』という微笑ましいタイトルに変貌し、二人が公園の木洩れ陽で肩を寄せ愛、愛に来てと心の中で呟いてみせた、ある日の昼間の出来事のように、気が付けば何気なく、脚本は二人の部屋のテーブルにあった。
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