七色の空

七色の空

「七色の空」

夢を追い続け、時間に追われ、充実した人生を送ることが出来れば、愛などといったつまらないものに翻弄されることはない。愛などといったつまらないものは必要ではない。所詮、愛などといったものは、暇人の暇人による暇潰しの為のざれごとだろう。
七色の空は、夢を追う者にしか見ることができない。
 福生は命尽き、林檎の胸の中で、そんな夢を見ていた。映画祭が幕を開け、福生の映画が上映されてから、二人の手と手はこの世でおよそその結び付きの強度に勝るものがないと思われる程、優しく、儚く、悲しく、そして何よりかたく結ばれた。福生は自分の映画を最後まで見届けることは叶わない。静かに福生の生を失った体が林檎の胸に吸い込まれると、スクリーンを見つめる林檎の瞳は涙でくもり、目の前の素敵な出来事を一層感傷的なものにさせた。
なぜ神様はこんな悲しいストーリーを強いるのか?その答えはとても簡単だ。それは、神様などいないからだ。そんな当たり前のことを、二人は当たり前に理解できていた。
今、目の前に映る現実は、体内で日々死滅してゆく細胞と同様であり、すなわち死である。人は生きるべきだ。人は生きたいはずだ。
 福生を見送るように、会場全体を盛大な拍手が包みこんだ。辺りは1面田園風景。真っ暗な夜に映画祭会場は一際明るい光を放つ。一年に一度、この季節になると、夜に歌う蟲たちの声と人々の拍手の音が、まだ青々とした稲穂を揺らす。
(その後…)
ある日、ベランダから見上げた空に虹が架っていた。林檎は福生の部屋に越し、生活をしている。部屋のベランダからは広い空を見上げることができた。

林檎の意識は虹に近付き、七色の空に想いは透けた…


林檎「あなたが
助けてくれた
………ありがとう」

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