七色の空

2つの時 二人の時間

ﾁｬﾌﾟﾀｰ11
「虎穴に入れば親子ぐい」

同じインターネットカフェで数日寝泊まりした林檎は、そこの個室が飽きたのか、引越しすることにする。とりあえず毎晩の夕食に利用した近くのウェンディーズもしばらく来ることもないだろと、大好物のチリチーズフライLｻｲｽﾞをたいらげて煙草を４本吸いおわり、店を出ようとするまでに、どいつもこいつもホスト風の男ばかり３組６名様とピンで３人、計９人に声をかけられた。まだまだ私はイケてる女。と、自己満足の池袋の夜はキラビやかだ。林檎がAV女優にスカウトされたのも池袋。今では東京都の条例改正で風俗スカウトは大分影を潜めたが、人類史上もっとも古くから存在するこの業界は非常に強大で、他のあらゆる存在と比べても、地に張った根の太さが違う。
林檎はそこの一番星になりたかった。本人にはそんな自覚はなかったが、しかし林檎が相手にしているのはそれだけ強大なモノなのである。
アダルトビデオを見て一人で抜いている父親も、愛する娘がAV女優になりたいと言えば反対するだろう。その時、AV女優を夢見る娘に夢を諦めさせるには、「愛する娘にそんなことさせられるかッ」では、駄目である。ナンセンス極まりない。説得する言葉があるのなら、例えばこんな言葉ではなかろうか？「父さんは二度とアダルトビデオで抜いたりしないと誓おう、これからは、死が二人をわかつまで、父さんは母さんでしか射精しない」。
どうですか？この父親の覚悟は謂わば出家でしょ？ゲダツでしょ？否、それ以上です。
この世はくだらないパラドックスで出来上がり、だからこそ平和に生きていられる。林檎は池袋でそんなことを感じながら山の手線に乗り込んだ。
林檎がいまだデビューしていないのは…みなさんは知っておられますでしょうか？AV業界で勝ち抜く事が想像以上に過酷なことを。林檎はまだ、ほら穴の入口にいる。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。
きっと林檎は穴に入って虎の親がいたら、自分の穴に虎の極太をいれるのだろう。ついでに子虎のも…