七色の空
チャプター12
「泣き出しそうな空」

「おかえり」
帰宅した福生の背後から突然声がした。人は予想していない音を耳が感知すると驚くようになっている。おどかすという行為の前に精神に不安を来たしている状態であれば、その驚きは不安の度合いに比例して大きくなる。驚きとは不安である。増幅した不安から解放された時、人は当然ながら安心する。
この時の福生は不安を来たしていたのか?答えはイエスである。本人も自覚はできていなかった。寂しさや不安は慣れてしまうことができる。しかし、慣れようが慣れまいが心に蓄積する絶対値は変わらない。この男はこれまで溜めすぎていた。寂しさや不安を栄養に生きてきたから。林檎の「おかえり」で、福生の不安は関をきったように溢れだす。ろうばいする福生に林檎は「ただいまは?」と続けた。
その夜は、泣き出しそうな空だった。
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